埼玉県熊谷市で6人が殺害された事件で、妻の加藤美和子さん(41)と2人の娘を奪われた美和子さんの夫(41)は、親族の家に身を寄せて葬儀の準備に追われている。
子煩悩だった夫は、テレビニュースを一切見ようとせず、事件のことを口にすることもない。幸せだった家族の生活は一瞬にして打ち砕かれた。
美和子さんと、長女美咲さん(10)、次女春花さん(7)は今月16日、夫の留守中に、自宅で殺害された。「ごく普通の幸せな家庭だった」。
美和子さんの夫の兄(51)は、そう振り返る。兄によると、めったに感情を表に出すことのない夫は事件直後に熊谷署に駆けつけた時、署の一室で声をあげて泣いた。
夫は、美和子さんとともに2人の娘をかわいがった。娘たちも、食事中に「抱っこして」と父親に甘えたりした。
今年8月に熊谷市で開かれた花火大会では、浴衣を着て手をつなぐ2人の娘を、うれしそうに見ていたという。
娘のために学資保険にも入っていた。高校時代、父親の病気が理由で進学を断念したこともあり、娘の大学進学を願っていたようだ。
事件後は、ニュースが流れると「消してくれ」とテレビから顔をそむける。話の中で事件に触れることもない。
「こんなことになるとは夢にも思わなかった」。兄はそう言って、弟を気遣う。「突然、妻と子を失い、一人になってしまった。なかなか立ち直れないだろう」
母親は、事件の直後に話をすることが困難になり、病院で「中度の脳梗塞(こうそく)」と診断された。そのまま入院し、寝たきりの状態が続く。
事件後、夫の実家の玄関に張り出された紙には、こうつづられている。「大切な家族との別れがまだ信じられません。一刻も早く真相が明らかになることを望んでいます」